遠射はそんなにエライのか?
鉄砲とか所持する気は無いものの、単純に好奇心とか興味とかで一般の方から銃やハンティングに
ついて聞かれるコトがあります。そしてその時、ほぼ共通して聞かれるのが
 
「最大でどのくらいの距離で獲ったんですか?」
 
と言う質問です。こう言う時、豆鉄砲は
 
「最大で100mだけど、いつもは大体50m前後ですよ〜」
 
と答えてます。まぁ一般の方からすると自分の知らない世界のコトですし、興味があるのは分かる
んですが、ハンター同士でも同じコトを聞かれる場合があります。
 
そしてこの時、なぜかより遠距離で獲物を獲った方が勝ち誇った態度をとるのも事実でして、その
根底にあるのは「遠くで獲った方がエライもんね」みたいな考えがあるからでしょう。
 
しかし豆鉄砲はこう言う話に遭遇するたびに、ある深夜番組を思い出すのでした。
 
北野ファンクラブ
すでに終わった番組ですが、ご記憶にある方も多いと思います。
基本的に実に下らない番組なんですが、当時学生だった豆鉄砲はその中でも、ビートたけし・高田文夫
両氏の楽屋トークみたいなコーナーが好きで、よく腹を抱えて笑っていました。
そのトークの中で、その当時は単純に笑っていた話があるのですが、ハンティングを始めたある日、
その話を突然に思い出しその話の深さに感心したことがあります。
 
その話とは、当時有名になっていた元祖外人タレントの一人、オスマン・サンコンさんが、ビートたけし氏に
「是非、アフリカに遊びに来てください、案内しますんで」と何度も誘ったコトが始まりだそうです。
それでビートたけし氏は最初は面倒だったんで何回も誘いを断っていたそうなんですが、とうとう根負けを
してアフリカを訪問するコトになります。
そしてサンコンさんはご存知の通り、ギニア共和国の元外交官であり、周辺のアフリカ各国に顔が
利くそうなので、ビートたけし氏を周辺のアフリカ各国に連れまわします。
そして、記憶が少しあやふやで、どの国なのかは忘れましたが、アフリカのとある地で実際にライオン
なんかを狩っている部族のトコロに案内されるコトになります。
 
その部族、サンコンさんの事前の説明によると、現在の観光客相手に営業しているマサイ族のみたい
なのでは無く、本当にライオンを狩っている部族で迫力あるからと言う話で、サンコンさんは乗り気
なものの、ビートたけし氏はあまり乗り気ではないまま、墜落するんじゃないかと思えるようなボロイ
飛行機に乗ってその部族を訪れます。
 
※ここからは、豆鉄砲が覚えている範囲で出来る限りその話を再現してみます。
 多少の間違いがあると思いますがご了承下さい。
 
北野「でさ、ガタガタ揺れる小さい飛行機に乗って行ったんだよ」
高田「行ったんだ(笑)」
北野「でさ着いて降りたら、飛行機はすぐに帰っちまうんだよ(笑)」
高田「帰っちゃうんだ(笑)」
北野「それでさ、てっきりなんか見れるようなモノがあるかと思ったら何にもないの」
高田「無いの?何にも?」
北野「だだ〜っ広い何も無い草原に、不機嫌そうな現地のオヤジが一人居るだけ(笑)」
高田「ハハハ(笑)」
北野「で、オカシイと思って、よくよく話を聞いたら全部金が掛かるんだって」
高田「案内されてる側なのに?(笑)」
北野「そうだよ、とにかく金が掛かるって言うんだよ何をするにしても」
高田「金掛かるんだ?(笑)」
北野「しかも何でだかオイラが金払うって話になってんだぜ」
高田「ハハハ(笑)」
北野「しかもコレが結構高いんだ。それでイヤになっちゃって、何にも無いならすぐに帰ろうと思ったら」
高田「思ったら?」
北野「飛行機が戻って来るの2時間後だってさ」
高田「2時間!(爆)」
北野「でさ、こんな何にも無いトコロで2時間なんてヒマで死んじゃうじゃない?」
高田「草原しか無いしね」
北野「でさ、気が付いたらサンコンが現地のオヤジと隅っこで何か話てるんだよ」
高田「なんか話してるんだ」
北野「それでオイラが近づくと向こうで話そうみたいに逃げるんだよ(笑)」
高田「逃げるんだ(笑)」
北野「でさ、しばらくしたら会話が終わったみたいでサンコンが戻ってきたんだよ」
高田「ほう戻ってきてなんと?」
北野「ここは払うしか無いみたいなコトを言い出すんだよ」
高田「なんで?」
北野「知らないよ〜」
高田「で払ったの?」
北野「しょうがないよ、やるコト無いしアフリカまで来てケチと思われてもイヤだし」
高田「さすが世界の北野、太っ腹!(笑)」
北野「でさ、払うモン払ったし、だったらライオンでも目の前で狩ってもらえると思うじゃない?」
高田「まぁそうだね〜」
北野「そしたらシーズンじゃないからってんで出来ね〜みたいなコト言い出すんだ(笑)」
高田「詐欺じゃね〜か(笑)」
北野「ホントだよ、酷い話だよ(笑)」
高田「酷いね〜(笑)」
北野「で、だったらオマエんトコの部族で一番狩りの上手いヤツに会わせろって言ってやったの」
高田「ちょっとでも元を取らないといけないからね(笑)」
北野「でさ、それなら大丈夫だから連れてくるって言う訳だ」
高田「ほう」
北野「でね、オイラ達の感覚だと、狩りの上手いヤツって筋骨隆々で遠くに槍を投げれる人とか、
   やたら足の速い人だと思うだろ?」
高田「違うの?」
北野「違うんだよ、連れてこられたのは、その辺に居そうな普通のオヤジ(笑)」
高田「普通のオヤジ(笑)」
北野「でさ、ふざけんなと思って、なんでコイツが一番狩りの上手いヤツか聞いてやったの」
高田「聞くよね、普通のオヤジじゃ(笑)」
北野「そしたらさ、このオヤジがライオンとかに気が付かれずに一番接近出来るんだって(笑)」
高田「それだけ?(笑)」
北野「そう、槍を遠くに投げれるとか、足が速いとかは狩りには関係ないんだって、一番近づけるのが
    大事なんだって」
高田「近づけるのが?(笑)」
北野「そう、目の前まで近づいて槍で突くから失敗しないんだって(笑)」
高田「へ〜(笑)」
北野「笑っちゃうだろ?(笑)」
 
どうでしょうか?豆鉄砲もこの放送を最初に見た時はこの部分
 
北野「そう、槍を遠くに投げれるとか、足が速いとかは狩りには関係ないんだって、一番近づけるのが
    大事なんだって」
 
この部分で大笑いしていました。
でもハンティングを始めてからしばらくしてこの話を思い出した時、ひょっとしたら狩猟の本質について
語られているのではないかと考えはじめ、現在に至っています。
 
全ての根底にあるもの
とは言え、こう言うコトを書くと、「アフリカでライオンを狩っている人と同じな訳がないだろ!」
と思う人も居るでしょうし、槍を持ってライオンを相手にする人と、鉄砲で何かを狙っている人とでは
何か本質的な部分が違う可能性もあるので、ここはひとつ、代表的な鉄砲でお仕事をするケースについて
調べてみたいと思います。
 
軍隊のスナイパー
軍隊のスナイパーと言うと、少し前にアフガンで約2.5kmの狙撃を成功させたケースがニュースで
ありましたし、小説や映画の世界なんかでも、エライ遠くの距離から対象を狙撃したりしています。
こうなると、ちょ〜遠距離での狙撃と言うのが軍隊では普通に要求されるのかと思ってしまうんですが、
少し前に見たCS放送かなにかの番組では様子が違っていました。
 
番組は、英国軍のスナイパー選抜訓練の一部を放映していまして、その様子とは、訓練も最終段階に近づき、
広い丘陵地帯の一角にターゲットが設置されまして、その近くに教官が待機しています。
そして訓練生は全身偽装をして、その教官に気付かれないようにそのターゲットを撃つんですが、移動中や
撃った後、教官が訓練生を探しまして、訓練生が居ると思われる場所にもう一人の教官を誘導し、訓練生が
見つからなければ訓練生の勝ち、教官に見つけられたら訓練生の負けと言うゲーム形式のような感じです。
そして、一定時間内に3回連続で教官に勝てば終了なんですが、その指定された狙撃距離は600〜800mの間で
行わなくてはなりません。
 
当然教官も優秀なスナイパーですんで、攻防は一進一退な感じなんですが、正直、
「なんでソコまでするのかな〜、もっと遠距離から撃てばいいじゃん、そう言う銃も弾もあるんだから?」
と思ってましたら、その教官の方がなんでこのような訓練をするのかと言うコトについて解説をしてくれまして、
その答えと言うのが、
 
「本来であれば、もっとターゲットに接近して狙撃を行った方が成功率も高いし、
 実際、もっと近くまで接近出来るように訓練を行っています。
 しかし、ターゲットに対して、接近し過ぎると、今度は、狙撃後に敵に捕まる恐れがあるので、
 狙撃終了後の脱出時間を確保する為、その距離で狙撃訓練をしています。」
 
と言うコトでした。 つまりは、
 
「もっと近づいて撃ちたいけど、捕まったり殺されるのがイヤなんで仕方なく遠くから撃ってます。」
 
と言うコトになります。
 
警察のスナイパー
警察のスナイパーと言うと、豆鉄砲のイメージで真っ先に浮かぶのはアメリカのSWATチームのスナイパーでして、
どちらかと言うと、遠くのピルの屋上なんかに陣取って、爪楊枝を咥えながら犯人と対峙するイメージです。
そして、少なくとも訓練において、軍隊のスナイパーのような相手(犯人)に気付かれないように移動する練習
なんてまともにしないと思っていたんですが、先ほど紹介したCS放送の番組でそのイメージは見事に覆されました。
 
その訓練では、歩道と車道の僅かな段差や、植え込みなどを使って、如何に犯人に気付かれないように接近すれ
ばいいのかを訓練していました。
そしてここでも、教官がなんでこんな訓練をするのか解説していましたが、その理由は
 
「狙撃を確実に遂行する為、出来る限り犯人に接近することを重視しているから」
 
だそうでして、その狙撃距離は通常50〜100mの間だそうです。
豆鉄砲はライフル銃を撃ったコトも所持したコトもないので、ライフル銃を所持している方にその距離での射撃
の難易度を聞いたところ、「目を瞑ってても当たる距離、楽勝」と言うコトでした。
つまり警察においても、狙撃を確実に成功させる為に、出来る限り犯人に接近していると言うコトでした。
 
ハンティングのスナイパー
ハンティングの世界で遠射が普通の獲物と言うと、どうやらアイベックスなどに代表される山岳系のヤギが
それに該当するようです。
youtubeなどで検索されると、普通に800mとかそれ以上の距離で撃ってる映像が見れます。
と言う訳で、こう言ったアイベックスに代表される、山岳系のヤギのハンティングの歴史を紐解きますと、
多少の間違いがあるでしょうが、おおよそ以下のような流れのようです。
 
アルプスに代表される険しい山岳に、立派な角を持つアイベックスなどの山岳系のヤギを見つける
(ダンナ、あそこに立派な角を持ったヤギがいますよ)
 ↓
ヨーロッパ中の腕に覚えのあるハンター連中が角を求めて集まる
(よっしゃよっしゃ、獲ったらオレ様有名人!周りに自慢しちゃうもんね〜)
 ↓
腕に覚えがあるので、あらゆる方法を使って接近するものの全て失敗
(夜討ち朝駆け待ち伏せ餌付け・・・ナニやってもダメなのかよ ○| ̄|_) 
 ↓
それでも諦めずに、過去の経験からあらゆる方法を試す
(なんか方法ないのかよ?)
 ↓
不本意な方法だけと、なんとか獲れました。
(警戒しない遠距離から撃ったらなんとか獲れたよ)
 
と言う訳で、軍隊・警察・ハンターと、どの本職スナイパーも好き好んで遠射なんてしてないんですよね。
どちらかと言えば、とにかく狙撃対象に対して如何に接近するかを重要視していまして、もっと言えば
アフリカでライオンを狩っている人と同様
 
「確実に仕留めれる距離まで接近する技術」
 
と言うのを大事にしていると思いますが皆様はどう思いますでしょうか?
 
標的射撃とハンティングの違い
こうなると、射撃場での50mなり100mの射撃は無意味なのかと因縁を付けたくなる方も出てくると思いますが、
標的用紙とハンティングではその本質が全然違います。
標的射撃では皆さんご存知の通り、50mよりも100mでの射撃の方がグルーピングを纏めるのは難しいです。
しかしハンティングにおいては、獲物に100mまで近づくより50m、50mよりも30m、と接近する方が難しいん
ですね、標的用紙と違って何か変だと思えば逃げちゃいますから。
 
だからこの本質の部分を無視して、標的射撃とハンティングを同列にして距離だけを基準に自慢大会を始めるから
おかしな話になってしまうんですね。
ですから、標的射撃では遠距離でのグルーピングを自慢すればいいのでしょうが、ハンティングでは、より近距離まで
接近して獲物をゲットしたコトを自慢する方が、ハンターとして正しい姿勢だと思います。
 
ここまでのまとめ

豆鉄砲がハンティングを始めた当時、プレチャージ銃で100mの距離で獲物を獲ると言うのは、ある種憧れでもありました。
と言うのも、銃のポテンシャル的には可能と考えられていましたが、誰も実現出来ていなかったのと、それには
相当レベルの高い射撃技術が必要だと思われていたからです。
 
しかし、時代が進むにつれ100mの距離で獲物をゲットした方が現れ始め、現在では、それ相応のエアライフル
を使用し、それなりの射撃技術があれば100mでの獲物ゲットはそれ程難しい話ではなくなりました。
 
それよりも現在では、遠射を多用するコトにより獲物の警戒心を上げてしまい、短期間(2〜3年の間)では獲物を
ゲット出来るものの、長期間(2年以上)になると警戒心を上げた獲物に接近出来なくなって、最終的に獲物を
ゲット出来なくなった方まで居るようです。
 
と言う訳で銃の性能に胡坐をかいて余裕こくのは自由ですが、基本を忘れたハンターの末路は実に哀れなモノです。