怪しい伝説
今回は、狩猟用エアライフルにおける各種伝説を検証してみます。
 
主に検証するのは「冬になると、弾速が低下して、着弾がズレる」と言う伝説です(笑)
 
それでは、早速、検証に入ってみましょう。
 
空気密度の伝説
最初は、気温や大気圧によって、空気の密度が違うので、着弾が変化すると言う伝説です。
そこで、以下の公式を元に、それぞれの気温と気圧による空気の密度の違いを計算してみましょう。
ρ[kg/m3]=1.293/(1+0.00367t[℃])×H[mmHg]/760
 
空気の密度(0℃)=1.293kg/m3)
 

1070 hPa
1060 hPa
1050 hPa
1040 hPa
1030 hPa
1020 hPa
1013 hPa
1010 hPa
1000 hPa
990 hPa
980 hPa
35℃
1.207
1.195
1.184
1.173
1.162
1.150
1.142
1.139
1.128
1.116
1.105
30℃
1.227
1.216
1.204
1.193
1.181
1.170
1.162
1.158
1.147
1.135
1.124
25℃
1.248
1.236
1.225
1.213
1.201
1.190
1.182
1.178
1.166
1.155
1.143
20℃
1.270
1.258
1.246
1.234
1.222
1.211
1.202
1.199
1.187
1.175
1.163
15℃
1.293
1.280
1.268
1.256
1.244
1.232
1.224
1.220
1.208
1.196
1.184
10℃
1.316
1.304
1.291
1.279
1.267
1.254
1.246
1.242
1.230
1.218
1.205
5℃
1.340
1.328
1.315
1.303
1.290
1.278
1.269
1.265
1.253
1.240
1.227
0℃
1.365
1.353
1.340
1.327
1.314
1.302
1.293
1.289
1.276
1.263
1.251

※hpaはそのままではmmHgにはならないので、変換して計算してあります。
 
え〜・・・世間で認識されている程、密度の変化は無い模様・・・ってか、差が無いです(笑)
 
検証その1 射撃場で空気の密度が、ど〜こ〜とか言うヤツは嘘つきだ(笑)
 
追記 空気の密度の計算間違いに気が付いたので訂正をしておきました。←気が付いて良かった(笑)
 
え〜世間の認識通り、密度の変化はあるんですが、コレ見ると季節や天気で最大20%の差が出ます(汗)
 
検証その1 射撃場で空気の密度がど〜こ〜と言うのは正しいが、その手に温度計と気圧計を持ってないヤツの場合はハッタリだ(笑)
 
圧力の伝説
まずは、冬と夏の大きな違いと言えば気温です。気温が変われば、タンク内の圧力は変化します。
そこで、夏の気温を基準にして、温度が低下した場合の、圧力の変化を計算します。
 
温度(℃)
25
20
15
10
5
0
圧力(kg/cm2)
200
197
193
190
187
183

検証その2 気温が下がれば圧力は低下するのは当然!冬だから圧力がど〜こ言う前に射撃前に圧力を確認しよう(笑)
 
弾速の伝説 その1
確かに、気温が低下すると、圧力は下がります。さて、この下がった圧力で、弾速が
どのように変化するのか?ネットを彷徨ってとあるデーターを収集してみました。
そして、数字の上と下で何%の差があるのか計算してみました。
 
S410 No1
S410 No2
温度(℃)
圧力(kg/cm2)
弾速(m/s)
弾速(m/s)
25
200
249
293
20
197
249
296
15
193
247
295
10
190
249
299
5
187
249
301
0
183
252
296
弾速の差
2.0%
2.7%

検証その3 この誤差が気に入らない方は、どうぞ銃の買い替えを・・・(笑)
 
弾速の伝説 その2
今度は、この弾速の違いによって、着弾位置がどのように変化するのかを計算する必要があります。
そこで、各弾速の50mまでの到着時間を計算しまして、その時間から落下量を計算します。
落下量の計算式は以下の通りです。
落下量=1/2×9.8(重力加速度)×t(時間)×t(時間)
 
弾速(m/s)
50m
300
-13.61cm
290
-14.57cm
280
-15.63cm
270
-16.80cm
260
-18.12cm
250
-19.60cm

お〜、確かに着弾位置にズレがあります、しかし着弾位置は1cm程度しか変りません。
 
検証その4 弾速が10m/s変っても、着弾はおおよそ1cm程度しか変らない(笑)
 
射撃における三角関数の伝説
銃を撃つ時、完全な水平で撃つ機会は少ないと思います。実際には多少の角度をつけて射撃をするでしょう。
その為、撃ち上げ・撃ち下ろしでは、狙いを修正して射撃を行います。
ちなみに、撃ち上げ・撃ち下ろし、どちらでも場合でも、基本的に距離は短くなります。
 
そこで、今度は各射撃角度により、距離がどの程度変化をするのか計算してみましょう。
計算式は 距離=距離×cosθ ですんで、関数電卓とかexcelとかで計算できます。
 
角度
40m
50m
60m
70m
80m
角度
40m
50m
60m
70m
80m
1
39.99
49.99
59.99
69.99
79.99
24
36.54
45.68
54.81
63.95
73.08
2
39.98
49.97
59.96
69.96
79.95
25
36.25
45.32
54.38
63.44
72.50
3
39.95
49.93
59.92
69.90
79.89
26
35.95
44.94
53.93
62.92
71.90
4
39.90
49.88
59.85
69.83
79.81
27
35.64
44.55
53.46
62.37
71.28
5
39.85
49.81
59.77
69.73
79.70
28
35.32
44.15
52.98
61.81
70.64
6
39.78
49.73
59.67
69.62
79.56
29
34.98
43.73
52.48
61.22
69.97
7
39.70
49.63
59.55
69.48
79.40
30
34.64
43.30
51.96
60.62
69.28
8
39.61
49.51
59.42
69.32
79.22
31
34.29
42.86
51.43
60.00
68.57
9
39.51
49.38
59.26
69.14
79.02
32
33.92
42.40
50.88
59.36
67.84
10
39.39
49.24
59.09
68.94
78.78
33
33.55
41.93
50.32
58.71
67.09
11
39.27
49.08
58.90
68.71
78.53
34
33.16
41.45
49.74
58.03
66.32
12
39.13
48.91
58.69
68.47
78.25
35
32.77
40.96
49.15
57.34
65.53
13
38.97
48.72
58.46
68.21
77.95
36
32.36
40.45
48.54
56.63
64.72
14
38.81
48.51
58.22
67.92
77.62
37
31.95
39.93
47.92
55.90
63.89
15
38.64
48.30
57.96
67.61
77.27
38
31.52
39.40
47.28
55.16
63.04
16
38.45
48.06
57.68
67.29
76.90
39
31.09
38.86
46.63
54.40
62.17
17
38.25
47.82
57.38
66.94
76.50
40
30.64
38.30
45.96
53.62
61.28
18
38.04
47.55
57.06
66.57
76.08
41
30.19
37.74
45.28
52.83
60.38
19
37.82
47.28
56.73
66.19
75.64
42
29.73
37.16
44.59
52.02
59.45
20
37.59
46.98
56.38
65.78
75.18
43
29.25
36.57
43.88
51.19
58.51
21
37.34
46.68
56.01
65.35
74.69
44
28.77
35.97
43.16
50.35
57.55
22
37.09
46.36
55.63
64.90
74.17
45
28.28
35.36
42.43
49.50
56.57
23
36.82
46.03
55.23
64.44
73.64

検証その5 え〜っと・・・15度までは誤差の範囲でokですよね?(笑)
 
それでは一応、距離50mを基準に前後1mと2mで各弾速による落下量を計算してみましょう。
 
弾速(m/s)
48m
49m
50m
51m
52m
300
-12.54
-13.07
-13.61
-14.16
-14.72
296
-12.89
-13.43
-13.98
-14.55
-15.12
290
-13.42
-13.99
-14.57
-15.15
-15.75
280
-14.40
-15.01
-15.63
-16.26
-16.90
270
-15.49
-16.14
-16.80
-17.48
-18.18
260
-16.70
-17.40
-18.12
-18.85
-19.60
250
-18.06
-18.82
-19.60
-20.39
-21.20
240
-19.60
-20.43
-21.27
-22.13
-23.00
230
-21.34
-22.24
-23.16
-24.09
-25.05
220
-23.33
-24.31
-25.31
-26.33
-27.38
210
-25.60
-26.68
-27.78
-28.90
-30.04

検証その6 これを誤差の範囲と認められない方とは、お友達になりたくありません(笑)
 
しかし、ココは完璧を求めて、一番差が出ると思われる条件で計算をしてみましょう。
条件は以下の通り
・距離50m
・気温は25℃から0℃に変化
・射撃角度は45度
 
結果は以下の通り!
s410 No1
s410 No2
10cm
7.13cm

検証その7 うぉ〜出ました、その差最大10cm! 伝説は真実だった!(笑)
 
しかしね、射手もバカじゃないですよ、こんな条件でナンモ考えずに撃つ訳ないじゃないですか(笑)
それじゃ、もう少しマトモな条件で検証してみましょう
 
・距離50m
・気温は20℃から5℃に変化
・射撃角度は15度
 
結果は以下の通り!
s410 No1
s410 No2
1.31cm
0.91cm

検証その8 最大でも、1.31cm・・・う〜ん微妙(笑)
 
しかし、現実問題として数cmズレる訳なんで、別の原因を考えると・・・そうだ、温度が違えば、
金属なんか膨張や収縮して長さや体積が変るじゃないか!ひょっとしたら、寒くなって金属が縮んで、
その隙間から空気が漏れて弾速低下に繋がっているのでは?早速検証・・・
 
検証その9 もういいですよね、どうせ意味無いし・・・空気が漏れたら、銃砲店に修理依頼を・・・(笑)
 
 
結局、世間の認識ほど、銃が原因となる着弾の差は少なそうです。まぁ、その誤差をどう捉える
かは射手の考え方次第ですね(笑)
 
さて、今度は銃以外の弾道に影響を与えそうな要因について考えてみましょう。
 
風への対策
みなさんは、猟場や射撃場においてどのように風への対処をしていますか?
例えば、標的や獲物に対して、射手から見て右から左に風が吹いているとします。
当然、風によって弾が流されることを想定して狙いを右に修正すと思いますが、
どんな感じにズラしますか?水平方向に修正しますか、それとも水平方向+αの修正をしますか?
実は、ライフリングを切ってある銃身では、単純に右に修正しただけでは、修正が足りません。
以下は、射手を基準に、どの方向から風が吹いたら着弾がどのようにズレるかを示したものです。
写真の見方は、射手にとって、
3時の方向からの風が吹けば
Bの位置に着弾と言うコトで、
正面から吹く、12時の方向だと、
Kの位置に着弾と言うコトです。

結局、風が吹くと、このように平行四辺
形の範囲に弾が流されると言うコトですね。
この平行四辺形の範囲は風の強さによって
範囲が変ると言うことを理解して下さい。









肩付け
着弾がズレる原因には肩付けの位置の違いなんぞもあります。夏であればTシャツ一枚で
射撃をするケースが多いと思います。そして猟期になれば・・・(笑)
まぁ〜これ以上言うのは酷と言うモノでしょうか・・・
 
競技射撃の世界
競技射撃の世界と言うのは、狩猟用エアライフルよりもシビアな世界だと思います。
そりゃ、世の中には、やれ弾速が違うとか、射撃距離が違うとか言う方が多数いますが、
射撃と言う本質は変りません。それでは、競技射撃の世界では、これまでの伝説に対して、
どのようなスタンスを持っているのか、ちよっと調べてみましょう。
 
銃に対して
競技射撃の世界においては、銃を疑うと言うコトはまず無いみたいですね、それよりも、
射手の体調による成績の結果という捉え方をしているみたいですね
 
風に対して
競技の世界でも、風と言うのは射手を悩ませるものらしいです。しかし競技射撃の世界では、
たとえ風が強い競技大会の日であっても、優秀な射手は風を読み、高得点を叩き出すらしいです。
そして、その得点の差は下位レベルの射手とは一線を隔てるようです。
 
弾に対して
本来であれば、同じ弾であれば風に対して結果は同じはずなのですが、競技射撃の世界でも
やはり、ロットによって風に強い弾と言うのは存在するらしいです。そして、射手はそう言う
弾に当たった場合、大会用の弾として保管しておくそうです。
 
空気の密度に対して
競技射撃系のHPの質問コーナーに空気の密度がどのように射撃に影響するのか?と言う質問が
ありました。答えとして、以前あったメキシコ・オリンピックでは高地での開催だった為、
大気が薄いせいか、着弾が上になったそうです。しかし射手は特に銃を調整することなく、
狙い方を変更して対応したそうです。また回答者は質問者に対して、そんなことを考えるより、
射手としてのパフォーマンスを発揮出来るように練習しなさいと、たしなめておりました。
 
伝説の検証に当たって・・・
結局、自然を相手に射撃をしている以上、物理の世界で言う所の理想空間での射撃と言うのは不可能
です。今回の検証では、弾のBCによる違いなどは取り上げませんでした。それは、BCまで勘案すると、
豆鉄砲の持っている資材と頭脳では検証作業は不可能ですし、他にも弾道に影響するファクターは存在
しますが、今回の伝説に関して、そこまで追及するつもりは有りません。この検証に不満を持つ方が別の
アプローチから検証すればイイと思います。
 
ここまでのまとめ

猟場では射撃場のような環境が整った場所のような射撃は難しいと思います。
風が止まるのを待っていれば獲物は逃げてしまいます。
獲物までの距離も毎回同じではありません。
そして無論、獲物を見つけなければ撃つことすら出来ません。
そしてこう言う着弾を乱す悪条件を唯一解消出来るのは、獲物までの距離を詰める、
すなわちストーキングの重要性です。
 
そうなると、「犬のウンコが〜」と言うのも結構なんですが、大体において射撃時の温度・湿度・
気圧・密度etc・・・と言う方は、スナイパー小説が好きなんですよね〜
でもってその小説の中の主人公は任務達成の為、ウンコやオシッコはズボンの中で垂れ流しだし、
敵に発見されそうになれば、犬や馬のウンコを顔の前に持ってきて、敵の目をゴマかしたりして
いる訳で・・・みなさん、そう言うのに憧れるんだったら、犬のウンコぐらいガマンしません?
えっ、しない?・・・だったら当たらない理由は自分の銃のせいにするのは、自分の精神の未熟
さからだと認めませんか?(笑)
 
皆様の辛辣なご意見、ご感想を掲示板にてお待ちしているかも知れません(笑)